日本薬理学雑誌
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特集:ストレスから精神疾患に迫る―ストレスが脳を変える―
遺伝子から探る新規抗うつ薬の開発
山田 光彦山田 美佐高橋 弘丸山 良亮
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2006 年 128 巻 1 号 p. 19-22

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抄録

ストレス社会と言われて久しい現代において,うつ病のもたらす社会的影響は大きく,画期的な治療薬が存在しないためうつ病治療は長期化し,低経済成長社会,高齢化社会の到来とともに大きな問題となっている.うつ病の治療には適切な薬物療法が必須である.新規抗うつ薬の開発は神経伝達物質の薬理学に基づいて行われており,これまでに一定の成果を上げている.しかし,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)を含めて我々が日常臨床で用いている抗うつ薬は50年前に偶然発見された「モノアミン仮説」の範囲を超えるものではない.また,現在臨床で利用されている抗うつ薬の有効性は実は60~70%にすぎず,新しい治療薬の開発が強く求められている.実際,抗うつ薬の臨床効果は長期間の服薬継続によって初めて生じるのであり,抗うつ薬の真の作用機序を理解するためにはこれまでの作業仮説にとらわれない新しい創薬戦略が用いられなければならない.近年,抗うつ薬長期投与により間接的に引き起こされた神経化学的変化を遺伝子転写機構の調節を伴う量的変化・タンパク質の発現変化として捉えることが可能となってきている.我々は,「真の抗うつ薬作用機序とは機能タンパク質の発現を介した脳システムの神経可塑性変化・神経回路の再構築である」という新しい作業仮説の検証を進めている.偶然の発見に頼ることのない「抗うつ薬新規ターゲット分子の探索」は我々に画期的な作業仮説を提言するものであり,将来は新しい作用機序を持つ医薬品の開発という具体的成果につながるものであると考えられる.

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