日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:生活習慣病の治療戦略
転写因子SOX6とPDX1によるインスリン分泌調節機構
井口 晴久酒井 寿郎
著者情報
ジャーナル フリー

2006 年 128 巻 4 号 p. 219-224

詳細
抄録

末梢組織のインスリン抵抗性を代償するために,膵β細胞はインスリン分泌を増加させることが知られているが,その分子メカニズムは十分明らかとなっていない.そこで我々は,高インスリン血症マウスと通常マウスの膵ラ氏島における遺伝子発現プロファイルを比較解析した.その結果,high mobility group(HMG)boxを有する転写因子ファミリーの1員であるsex-determining region Y-box 6(SOX6)の発現量が,高脂肪食負荷マウスとob/obマウス由来の膵ラ氏島において,顕著に減少していることを見出した.そして,β細胞由来細胞株であるMIN6細胞にSOX6を強制発現するとグルコース刺激性のインスリン分泌が抑制されるのに対して,siRNAを用いてSOX6の発現を抑制するとインスリン分泌は増加した.更に詳細な検討を行った結果,SOX6は酸化的リン酸化酵素群の一部やインスリンの転写を抑制することで,細胞内ATP/ADP比およびインスリン含量を低下させ,最終的にインスリン分泌を抑制することが分かった.驚いたことに,転写活性化因子と考えられていたSOX6は転写抑制活性を併せ持っていた.そこで,インスリンプロモーターを用いてSOX6の転写抑制機構を解析したところ,SOX6はβ細胞の分化,機能維持に重要な働きをする転写因子であるpancreatic-duodenal homeobox factor-1(PDX1)と直接結合し,その転写活性を抑制することが明らかとなった.以上の結果から,SOX6とPDX1の協調的転写調節がインスリン抵抗性状態の代償性インスリン分泌亢進機構に関与していると推察された.

著者関連情報
© 2006 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top