日本薬理学雑誌
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特集:心血管病に関与する細胞内情報伝達系
レンチウイルスベクターによるSERCA2a遺伝子導入はラット実験的心筋梗塞による心不全を改善し,左室リモデリングを抑制する
新井 昌史庭野 和生
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2007 年 129 巻 4 号 p. 238-243

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抄録

SERCA2aタンパクは,心筋小胞体膜に存在するタンパクで,細胞質のCa2+を濃度勾配に逆らって,心筋小胞体内に汲み上げる働きをする.これにより,心筋は弛緩することができる.非代償性心不全では,SERCA2aのmRNA発現,タンパク量,Ca2+汲み上げ能が低下する.一方,SERCA2aを過剰発現させたマウスは,単に左室弛緩能が改善するだけでなく,圧負荷や糖尿病に伴って生ずる心機能低下を予防する効果を有することが報告されている.しかし,トランスジェニックマウスは遺伝的にSERCA2aがもともと増強されている動物であり,実際の病態での治療効果を反映しない.そこで,われわれはラットに心筋梗塞を作製し,これによって生じた慢性心不全に対し,SERCA2a遺伝子を発現するレンチウイルスベクターを冠動脈から注入し,心不全に対する治療効果を6カ月間にわたり検討した.SERCA2a遺伝子導入群は,対照遺伝子であるβ-galを導入したものに比べ,心エコーでの駆出分画の改善し,左室内腔の拡大,すなわち,心不全による左室リモデリングを抑制した.その結果,有意に生存率を改善した.さらに,SERCA2a遺伝子導入により,SERCA2a発現が改善するだけでなく,心機能の改善に伴って二次的に,他の心筋保護的な遺伝子発現の上昇と心筋障害的な遺伝子発現の低下をもたらすことが判明した.永続的なSERCA2a遺伝子導入は,難治性心不全に対する治療のための新たな選択肢として期待できると考えられた.実際には,心臓移植までの橋渡しなどが現実的な適応になるものと思われる.大型動物での検討を経て,臨床応用が望まれる.

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