日本薬理学雑誌
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特集:健康食品の薬理学―その基礎研究から起業独立まで
陳皮の抗認知症成分nobiletinの薬理作用とその機能性食品開発への応用
山國 徹中島 晶大泉 康
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2008 年 132 巻 3 号 p. 155-159

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抄録

私たちはアルツハイマー病(AD)の新しい予防法および原因療法の開発を目指して,ADの予防・治療効果を示す天然薬物を探索する研究を進めてきた.その結果,新しい抗認知症作用を有する天然薬物として,生薬陳皮(AURANTII NOBILIS PERICARPIUM)に含まれる,分子量402.39のポリメトキシフラボン,nobiletinを発見することに成功した.Nobiletinは,ADの原因物質のAβを脳室内に注入した急性ADモデルラットにおいて記憶障害改善作用を示し,Aβ1-40およびAβ1-42を過剰発現するアミロイド前駆体タンパク質トランスジェニックマウス(APP-SL7-5)において脳内のAβの蓄積を抑制し,Aβ誘発性記憶障害を改善させた.また,本天然薬物は,中枢コリン作動性神経の変性を伴う嗅球摘出誘発性記憶障害モデルマウスの神経変性を抑制し,記憶障害を改善する作用を示した.さらに,N-methyl-D-aspartate受容体遮断薬(MK-801)誘発性記憶・学習障害マウスにおいて,海馬でのERKの活性化により,MK-801誘発性記憶・学習障害を改善した.他方,培養ラット海馬ニューロンを用いてnobiletinの記憶障害改善作用のメカニズムを解析した結果,nobiletinが,培養海馬ニューロンにおいて,AMPA受容体の細胞膜への移行やPKA/ERK/CREBシグナル伝達を促進し,またAβによるグルタミン酸誘発性PKA/CREBシグナル伝達の阻害を抑制することが明らかとなった.このようなユニークな薬理作用を有するnobiletinは,種々の食用柑橘類果実に含まれており,それを応用した機能性食品の開発が可能になれば,ADなどの認知症の予防・改善に有効な代替療法が確立できると期待される.

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© 2008 公益社団法人 日本薬理学会
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