日本薬理学雑誌
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受賞者講演総説
胎仔由来神経保護物質セロフェンド酸の発見と作用機序の解析
久米 利明
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2009 年 133 巻 5 号 p. 257-260

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抄録

グルタミン酸神経毒性は,中枢神経変性疾患および脳虚血に伴うニューロン死の危険因子の一つであり,神経伝達物質,神経栄養因子などの内在性因子による制御を受けることを示す知見が報告されている.本研究では,グルタミン酸神経毒性を制御する新規内在性因子を探索する目的で,動物細胞の培養時に頻用されるウシ胎仔血清に注目し,神経保護活性物質の精製・単離を行い,新規神経保護活性物質セロフェンド酸を発見した.その薬理作用について検討したところ,培養大脳皮質ニューロンにおいて,高濃度グルタミン酸によるニューロン死に対して,セロフェンド酸は保護作用を発現した.電子スピン共鳴を用いた検討により,セロフェンド酸は活性酸素種であるヒドロキシラジカルの生成を抑制することが明らかとなり,セロフェンド酸が抗ラジカル作用を有することが明らかとなった.また,低濃度のグルタミン酸誘発アポトーシス性ニューロン死に対してもセロフェンド酸は著明な保護作用を発現した.そのメカニズムについて検討したところ,セロフェンド酸はグルタミン酸により誘発されるミトコンドリアの脱分極を抑制することで,その後のカスパーゼ-3の活性化を抑制し,グルタミン酸神経毒性を抑制することが示唆された.さらに,ラット中大脳動脈閉塞による一過性脳虚血モデルにおいてセロフェンド酸を脳室内投与したところ虚血により生じる梗塞巣体積が減少した.これらの研究成果は,セロフェンド酸がin vitro,in vivoの両者において神経保護作用を発現することを示すものであり,そのメカニズムに抗ラジカル作用および抗アポトーシス作用が関与することを明らかにした.セロフェンド酸は胎仔期特異的に存在する低分子量の神経保護活性物質であり,胎仔期のニューロン生存を促進する因子の一つとして働くことが示唆されるとともに,新たな神経変性疾患治療薬としての応用にむけた展開が期待される.

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© 2009 公益社団法人 日本薬理学会
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