日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
慢性骨髄性白血病およびフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病治療薬ダサチニブ(スプリセル®錠20 mg,50 mg)の薬理学的特性および臨床効果
藤井 裕天野 学芹生 卓
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2009 年 134 巻 3 号 p. 159-167

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抄録

ダサチニブ(スプリセル®錠)は慢性骨髄性白血病およびフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の病因となるBCR-ABLチロシンキナーゼを阻害する分子標的治療薬である.ダサチニブはBCR-ABLのみならず,SRCファミリーキナーゼ(SRC,LCK,YES,FYN),c-KIT,EPH(エフリン)A2受容体およびPDGF(血小板由来増殖因子)β受容体を強力に阻害し,ダサチニブのBCR-ABLチロシンキナーゼに対するin vitroでの阻害活性はイマチニブの260倍であった.また,イマチニブが立体構造上ABLの活性化ループが閉鎖状態にある不活性型にのみ結合するのに対し,ダサチニブはこの不活性型に加えて活性化ループが開放状態にある活性型にも結合可能である.これらの作用により,ダサチニブはイマチニブ抵抗性の白血病に対しても効果を示すものと考えられる.ダサチニブはイマチニブ治療抵抗性の主要因であるBCR-ABLキナーゼドメインの変異に対して,19種類中T315I以外の18種類の変異を有する細胞に対して細胞障害作用を有していた.ダサチニブの海外および国内臨床試験の結果,イマチニブ抵抗性または不耐容の慢性期慢性骨髄性白血病患者に対しては1回100 mg 1日1回投与で,また,イマチニブ抵抗性または不耐容の移行期または急性期慢性骨髄性白血病,並びに再発または難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病患者に対しては1回70 mg 1日2回投与で承認された.また,非血液毒性によるイマチニブと本薬との交叉不耐容はほとんど認められなかった.今後,ダサチニブはイマチニブ抵抗性または不耐容の慢性骨髄性白血病および再発または難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の治療に新たな選択肢を提供するチロシンキナーゼ阻害薬と考えられた.

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