日本薬理学雑誌
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特集 心血管疾患と炎症
動脈硬化の病態における慢性炎症の役割
佐田 政隆
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2011 年 138 巻 5 号 p. 182-186

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抄録

急性心筋梗塞の発症原因として,軽度な狭窄しかきたさない動脈硬化病変の破裂やびらんに起因する急性血栓性閉塞が注目されている.破綻した病変では,脂質コアの増大,被膜の菲薄化,平滑筋細胞数の減少,凝固能の亢進,コラーゲン含有量の減少,炎症細胞浸潤,タンパク分解酵素の発現亢進,プラーク内血管新生などが認められる.しかしプラーク脆弱化の機序,予防法などに関しては不明な点が多く,急性冠症候群の発症をバイオマーカーや画像診断で予知することは困難である.私たちは,臨床材料ならびに動物モデルを用いて,動脈硬化の進展と破綻の機序を研究している.ヒトの動脈硬化は,従来考えられていたよりかなり早期から始まり,各種生活習慣の悪化とともに急速に増悪し,突然イベントを誘発する.その病態においては,従来研究されてきた脂質の沈着や細胞増殖だけでなく,血管周囲のVasa Vasorum からの新生血管を介した細胞流入や微小出血が関与することがわかってきた.また,血管,特に冠動脈周囲には豊富に脂肪組織が存在し,血管の慢性炎症,動脈硬化に深く関与し,粥腫の進展と不安定化に重要な役割を担っていると考えられた.この一連の病態に,レニン−アンジオテンシン系は深く関与しており,その抑制は血管炎症,プロテアーゼ発現,内皮細胞アポトーシス,外膜血管新生を効果的に抑制し,プラークを安定化させた.本稿においては,生活習慣病によって動脈硬化が進展し破綻するまでの過程に関する最新の知見を解説する.特に,動脈硬化の病態における慢性炎症の役割とその新規制御因子として注目されているVasa Vasorumと血管周囲脂肪組織の役割を詳細に検討する.

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