日本薬理学雑誌
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特集:創薬標的としてのイオンチャネル・トランスポーターの新たな研究法・探索法
イオンチャネル標的創薬におけるHTSの現状と展望
藤井 将人大矢 進山村 寿男今泉 祐治
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2011 年 138 巻 6 号 p. 229-233

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抄録

イオンチャネルは,様々な生理現象を直接的に制御し,多くの病態にも関係しているため,主要な創薬標的の1つである.しかし,受容体や酵素などを標的とした既存の医薬品に比べ,イオンチャネル作用薬の割合は明らかに少ない.この原因の1つとして,高効率スクリーニング(HTS: high throughput screening)系の開発が遅れていたことが挙げられている.近年,イオンチャネル機能測定で最も有効な,しかし非効率なパッチクランプの自動化が達成され,また他のスクリーニングも開発・改良されてきたことから様々なHTS化が進んできている.本稿ではこれらの長短所の整理を試みた.精密性と汎用性において優れているオートパッチクランプは,その応用であるポピュレーションパッチクランプの出現により普及しつつあるが,コストパフォーマンスの面では必ずしも有利ではない.イオン感受性あるいは電位感受性蛍光色素やイオンフラックスを用いたより単純なHTS系も,測定系として適合していれば,コストパフォーマンスを含めた効率の面から多検体1次スクリーニングに充分有効となっている.我々は不活性化の遅い変異型電位依存性Na(Nav1.5)チャネルをKir2.1チャネルとともにHEK293細胞へ定常発現させ,「1発の活動電位発生により確実に細胞死が引き起こされる細胞」の作成に成功した.この細胞へさらに創薬標的イオンチャネルを機能発現させ,チャネル活性に対する試験化合物の作用が,活動電位発生と波形調節を介して細胞生死の割合を制御することを見出し,細胞死測定で作用化合物の効力を定量的に解析する極めて簡便なスクリーニング方法開発へ繋がる可能性を示した.多様な目的に応じて選択の可能な多数のスクリーニング方法が実用化されHTS化が進むこと,同時に標的イオンチャネルを定常発現した質の高い細胞の作成・供給が,この領域での新薬開発研究推進を助ける重要な2つの要素と考えられる.

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