日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
高齢になってから診断された先天性プレカリクレイン欠乏症の1症例
長屋 聡美森下 英理子高見 昭良丸山 慶子關谷 暁子朝倉 英策中尾 眞二大竹 茂樹
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 46 巻 4 号 p. 348-351

詳細
抄録

プレカリクレイン(以下PKと略す)は接触因子の1つであり,内因系血液凝固反応,キニン生成による炎症反応,線溶促進に重要である.先天性PK欠乏症は,常染色体劣性遺伝形式をとる先天性凝固異常症で,臨床的には出血傾向に乏しく,凝固スクリーニング検査にてAPTT延長で発見されることが多い.
発端者は69歳女性である.若年時より誘因なく紫斑の出現を認め,最近は手指に皮下血腫を認めるようになったため,近医を受診した.出血傾向のスクリーニング検査にて,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の著明な延長を指摘され,精査目的にて当科受診となる.プロトロンビン時間(PT)は正常であったが,APTTは64.9秒と延長を示し,凝固第VIII,第IX,第XI,第XII因子活性,von Willebrand factor活性に異常は認められず,凝固時間法によるPK活性を測定したところ,測定限界以下にまで低下していた.交差混合試験では正常血漿の添加によりAPTTは補正され,凝固因子欠乏型を示した.一方,ループスアンチコアグラントは陰性であった.家系内に出血傾向を示す者はなく,両親は血族婚である.以上より,先天性プレカリクレイン欠乏症と診断した.
発端者の遺伝子解析を施行したところ,発端者はエクソン11の1,352番目の塩基であるグアニンがアデニンへと一塩基置換しており,その結果401番目のグリシンがグルタミン酸へと一アミノ酸変異したホモ接合体であると推測された.この変異は,PK Tokushimaとして既に報告されている変異である.
以上,高齢者のAPTT延長の原因として,接触系凝固因子欠乏症の可能性を考え,凝固第VIII,第IX,第XI,第XII因子活性に異常がない場合には,PK活性の測定も行うべきと考えられた.

著者関連情報
© 2009 一般社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top