日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
第52回日本老年医学会学術集会記録〈パネルディスカッション3:高齢者感染症の現状と対策〉
5.高齢者敗血症
増田 義重
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2010 年 47 巻 6 号 p. 561-564

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抄録

急性期医療をになう高齢者専門病院の当院での37年間の血液培養分離菌の変遷を検討した.グラム陽性球菌では,MRSAは1980年代に著増し,1990年代に頭打ちとなり,2000年代に入り減少傾向を示す.CNSは1980年代に著増し,真の敗血症例では血管内留置カテーテル関与例が多く見られる.肺炎球菌は1990年代に増加し,ペニシリンに対する耐性化が進行している.腸球菌,連鎖球菌は1990年代に増加傾向を示している.グラム陰性桿菌では,大腸菌が一貫して高頻度に検出された.クレブシエラは1980年代より減少傾向だったが,2000年代に入り増加傾向に転じている.緑膿菌は1990年代より減少傾向だが,顆粒球減少に伴う例は著しく増加している.その他のグラム陰性桿菌は1980年代から減少している.嫌気性菌,真菌は1990年代に減少傾向を示す.当初は狭域ペニシリン,第一世代セフェムを中心に,グラム陽性球菌に対する抗菌力の強い薬剤が開発,使用された.1980~1990年代に緑膿菌を含むグラム陰性桿菌や嫌気性菌に対する抗菌力が増強された第三・四世代セフェム,カルバペネム,ニューキノロンが続々と開発使用された.また生理食塩水の静注,大量皮下注に始まった補液も,医療技術の進展に伴い1970年代には,末梢静脈から電解質液を持続点滴,さらに1980年代には中心静脈留置カテーテルを用いた高カロリー輸液へと進歩した.このような進歩により,高齢者に対してもより高度で侵襲的な医療が可能となった.また当初は急性期管理,周術期管理のために開発されたこれらの手技が,高齢者の終末期医療にも広く用いられるようになってきた.このような投与抗菌薬の変化や,静脈内留置カテーテルの汎用と言った高齢者医療の変貌が血液培養分離菌の変貌に関与していると考えられる.

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© 2010 一般社団法人 日本老年医学会
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