医療と社会
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研究論文
ソーシャルキャピタルと研究業績
医薬品の基礎研究者の分析
中本 龍市
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2010 年 20 巻 2 号 p. 139-153

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抄録

本研究の目的は,研究者間で張り巡らされたネットワーク構造の特性が,各研究者の研究成果にどのような影響を持つのかを検証することである。最適な関係性の構築については,大きな関心があるものの,個々人の間にある関係性のデータは入手しにくいため,これまで十分に研究が蓄積されていない。そこで本稿では,新薬候補物質を見つけるという重要なプロセスである医薬品産業の基礎研究に焦点を当て,研究者の持つ関係構造と研究者の業績の関係を分析する。
1980年代以降,日本を代表する医薬品企業であった武田と三共を分析対象にした。1980年から1999年までの特許データを用い,研究者の関係性を抽出した。それらを元に,ネットワーク構造とネットワークの強弱に関する変数が研究者の業績にどのように影響しているのかを検証した。さらに,因果関係を特定したいため,1980~1989年,1990~1999年までの2期間にデータを分けて分析した。分析の結果,以下のことが分かった。(1)1980年代のネットワークにおける媒介中心性は研究者の業績に正の効果がある,(2)1990年代のネットワークにおける構造拘束度は研究者の業績に負の効果がある,(3)強い紐帯の効果は,1980年代と1990年代では逆の効果を持っていた。これらの結果から,ネットワーク構造とネットワークの強弱の効果は時間差で異なることが示唆される。

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© 2010 公益財団法人 医療科学研究所
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