医療と社会
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研究ノート
アメリカ病院協会の「患者の権利章典」の変化とその特徴
権利の宣言からパートナーシップへ
大野 博
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2011 年 21 巻 3 号 p. 309-323

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抄録

アメリカ病院協会(AHA)は,その「患者の権利章典(A Patient's Bill of Rights)」を「治療におけるパートナーシップ(The Patient Care Partnership)」に置き換えた。変更の特徴は,権利の強調から患者と医療提供者のパートナーシップの強調への変化である。筆者は,患者の権利に関する先駆的な文書であるAHAの「患者の権利章典」のこのような変化は,重要な意味を持つと考え,その理由と背景を考察した。
AHAが重要な文書の変更を行った理由は,医療の複雑化などによって,医療提供者と患者とのより良いコミュニケーションの確立が重要な課題となったからである。その背景の一つとして,患者の権利の法制化があり,二つ目は,「患者の権利章典」をかかげることが,必ずしも患者の安全につながらないという事実の顕在化(医療事故の頻発)である。前者は,患者の権利が社会的に認知されたことを意味し,「患者の権利章典」の独自の意義を低下させた。後者は,患者と医療従事者との協力関係の重要性を提起し,病院の積極的な対応を求めた。
こうしたことが,病院と患者との関係を律する,根本理念とも言える文書の変更につながったものと考えられる。AHAの「治療におけるパートナーシップ」の制定は,患者の権利の宣言から,その確実な実現をめざすものであり,わが国の患者の権利のあり方にも参考になるものである。

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© 2011 公益財団法人 医療科学研究所
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