医療と社会
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研究ノート
看護師の越境移動にかかわる日本の規制枠組の検討
―人の自由移動を標榜するEUと加盟国イギリスの規制枠組をふまえて―
井上 淳
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2011 年 21 巻 1 号 p. 85-96

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抄録

本論文は,人材流入を促進ないし抑制するために規制政策を通じてどのような措置を講じているのかという観点から,看護師の越境移動にかかわるEUとイギリスの取り組みを分析し,その上で日本のEPAによる外国人看護師受け入れの枠組を検証する。
EUでは人,財,サービス,資本の自由移動達成という目標があるため,EUが定めた最低限の教育・資格水準を満たしている限りにおいて看護師の越境移動が認められる。しかし,加盟国の増加によって経済面でのプッシュ-プル要因が生じるまでは人材移動は起こらなかった。また,新規加盟国からの人材流入は,最低限の資格水準を満たしていない場合には留保した。
イギリスは,看護師不足による人材需要が高い時期には外国人看護師を積極的に受け入れ,看護師の数が予定数を超え財政を圧迫するようになると受け入れに消極的になった。外国からの看護師受け入れを増減させるために,入国基準,看護師登録基準とりわけ免許で保証される資格水準,語学力のレベルを効果的に操作した。
EUやイギリスと比べて日本のEPAは,人材流入を促す取り極めのなかに人材流入を阻止する効果をもつ措置が散見された。政府は外国人看護師受け入れを人材不足への対応とは公式には認めていないにもかかわらず,現実の一部受け入れ機関の動機には人材不足による外国人の需要がみられる。そのようななか特例としてもうけたEPAの枠組は,公的措置としても特例措置としてすらも機能していない。原則と特例,公と民間,関係省庁間の利害を調整,合致させて,目的と手段に整合性のある規制を運営することが必要である。

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© 2011 公益財団法人 医療科学研究所
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