医療と社会
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研究ノート
医師の偏在に関する国際比較研究
松本 正俊
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2011 年 21 巻 1 号 p. 97-107

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抄録

本研究は医師の地理的分布について日米英の国際比較を行った。まず日英比較では,日本の診療所医師は英国の診療所医師に比べて地理的偏在度が高い傾向が認められた。英国の診療所医師は原則として総合医(GP)であり,またGPの定員は医療圏ごとに決まっている。日本における開業医の専門分化および自由開業制が地理的偏在に影響を及ぼしている可能性がある。続いて医師の地理的偏在度の推移を日米で比較した。1980年から2005年にかけて両国ともに医師数は一貫して増加していたが,医師の地理的偏在度はほとんど変化していなかった。米国では医師が所得の地理的分布に従って分布してゆく傾向があるのに対して,日本ではそのような傾向はなかった。公的医療保険の有無がこの差に影響を及ぼしている可能性がある。さらに米国では地域が医療過疎であるほど医師数は減っていく傾向があるのに対して,日本では医療過疎であるほど医師数が増えていく傾向があった。米国では医療過疎地に医師を誘導する政策が効果を挙げていない可能性がある。最後に医師の診療科目ごとの数と地理的分布を日米で比較した。2006年時点で日本の単位人口あたりの麻酔科医,放射線科医,救急医,病理医数は米国の半分以下であった。また日本では開業率の低い科ほど医師数が少なく地理的偏在度は高くなる傾向が見られた。日本においては開業の困難さがその科の医師数と医師分布に影響を及ぼしている可能性がある。本研究の結果より,わが国固有の医療制度が医師の地理的偏在に影響を与えていることが示唆された。

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© 2011 公益財団法人 医療科学研究所
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