Journal of Computer Chemistry, Japan
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研究論文
分子動力学/自由エネルギー計算によるF-ATPase 触媒部位への基質結合親和性の算出
末永 敦梅津 倫安藤 格士山登 一郎村田 武士泰地 真弘人
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2008 年 7 巻 3 号 p. 103-116

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抄録

ATP 合成酵素であるF 型ATPase は, ほとんどの生物に存在する膜貫通型タンパク質であり, ATPの加水分解反応に共役した分子の回転が観察されている. ATPase活性を持つ最小単位はα3β3γ複合体であり, 触媒部位である3つのβサブユニットはATP結合型(βTP), ADP結合型(βDP),空の構造(βE)の3つの異なる構造が解明されている. それらβサブユニットの3つの構造は異なる基質親和性を持つとされ,実験的に基質親和性の測定がされてきた. しかし, ADPの親和性に関しては未知であり, γサブユニットの回転をもたらすβサブユニットの構造変化も解明されていない. そこで, 分子動力学法/自由エネルギー計算により触媒部位の基質ATPとADPを相互変換したときの自由エネルギー差を見積もり,さらにその基質変化に伴うβ サブユニットの構造変化を観察した. その結果, βDP の構造が最もADP との結合親和性が高いことが解った. この算出値は一分子観察の結果から推測された加水分解反応モデルを熱力学的知見から裏付けるものであった. さらに, βサブユニットの構造変化とγサブユニットの回転を共役する役目を持つと考えられているDELSEED配列(Asp394∼Asp400)付近の構造を観察したところ, 基質変換に伴い構造変化が確認された. すなわち, DELSEED配列近傍のPhe418∼Gly426 は, 触媒反応と構造変化, 回転を共役するのに重要な残基であることが示唆された. 以上の結果から, ATP加水分解・Piの放出に伴い, DELSEED 配列付近の構造が変化し, それがγサブユニットの回転をもたらすという分子機構の様子が明らかになった.

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© 2008 日本コンピュータ化学会
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