全国井戸台帳によると,深井戸は帯水層の地質構成に基づき,多層スクリーンを有する不完全貫入井戸が多い。この点は,水資源としての地下水の有効利用だけではなく,水環境の保全にとっても重大な問題である。
したがって,一般に井戸設計では,施工コスト面を踏まえて,できる限り正確に計画揚水量を算定する必要がある。しかしながら,不完全貫入井戸の場合,水理定数の算定や揚水管理に関して井戸理論を正確に適用し難く,不適切な設計揚水量を導くこともあり,結果的に不正確な設計揚水量を算出することによって過剰揚水による井戸の枯渇の助長や地下水位の低下による地盤沈下の被害も多くなっている。本研究においては,安全な設計揚水量を導くために,プレボーリングによる帯水層の水理学的な地質特性,段階揚水試験及び定常説を用いて実用的な井戸損失式を提案して本式の有効性について考察した。すなわち,非定常説に基づくJacob法と対比される新しい揚水モデルによる井戸損失式を提案し,地下水盆を構成する地質が異なる地域や任意の井戸構造においても,同一の井戸損失式によって地下水管理が可能であることを実証的に明らかにした。