日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
症例報告
重症インフルエンザ脳症発症5年後のCT所見と臨床症状が乖離した1例
田畑 孝松岡 哲也大松 正宏
著者情報
ジャーナル フリー

2007 年 18 巻 4 号 p. 149-156

詳細
抄録

症例は発症時3歳の男児。インフルエンザ脳症に罹患し, バルビタール療法と低体温療法を併用することにより頭蓋内圧をコントロールできた。初診時のCTでは大脳両半球における低吸収, 脳腫脹, 皮髄境界の消失が顕著であった。第17病日には不明瞭であった脳槽の輪郭が描出され始め, やがて広範な低吸収域のなかに脳回とみられる相対的な高吸収域がわずかに認められるに至った。ただし, 両側大脳皮質の広範な低吸収の状態は変わらなかった。第39病日, 大脳皮質の相対的な高吸収域がよりコントラストを増し, その数も増加した。第52病日の転院までには四肢ともに運動が活発化するなど, 神経機能は徐々に回復した。その後, さらに認識能及び運動能は向上し, 5年後の現在, 介助なしで階段の昇降が可能となり公立小学校の養護学級に通学している。したがって画像においても相応な改善が期待された。ところが実際には5年後のCTでは全く逆の所見を呈している。転院前にはすでに脳回が明瞭化してきていたにもかかわらず, 発症5年後には再び不明瞭化へと逆行した。運動野を中心として脳回が残存している部分もみられるが, 両側中大脳動脈領域を主体に全体的に神経細胞は脱落しており, 脳萎縮は顕著になっていた。このような画像の変化と相反する脳機能の回復は, 頭部外傷のごく一部に見出されるdelayed neuronal lossと呼ばれる病態に類似している。以上の点から, 少なくともCT画像が大脳皮質における器質的障害の程度を直接反映するとは限らないため, 小児インフルエンザ脳症については, 急性期の集学的治療のみならず理学療法を含めた長期にわたる積極的な治療が重要となろう。

著者関連情報
© 2007 日本救急医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top