日本救急医学会雑誌
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総説
「災害医学」からみた「救急医学」
太田 宗夫
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2009 年 20 巻 3 号 p. 101-115

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抄録

歴史的に自然災害の多発国である日本は人的被災を存分に経験してきた。しかし,関東大震災で数万人の人命を失ったことは遠い歴史となり,医療世界も災害医療の重要性を忘れかけていた時代があった。1995年に起こった阪神淡路大震災では 6 千名が死亡し,続いて東京地下鉄サリンテロ災害が発生した。それらに対する医療対応が日本の医療レベルと大きく乖離したことが厳しく指摘された。この経緯が災害の取り組みを刺激し,現代的な路線をデザインする契機となった。医学世界も救急医学の視点をモディファイし研究をスタートさせた。本稿では,第36回日本救急医学会で災害医療と災害医学の現況を述べる機会を得たので,その概要を記述する。その論点は,災害医学と救急医学との関係に関する私見,災害医学研究組織の構築,日本集団災害医学会 JADM(Japanese Association for Disaster Medicine)の活動,今後の課題の 4 点で,これらを通して災害医学の動静を説明する。両医学の関係は一部で論議されていたが,災害医学に心入れをもつ者としては独立のカテゴリーとて研究を深めたいと希望するのが当然で,設置した研究組織が発展に寄与した。組織つくりの経緯は,1988年のアジア太平洋大災害医療会議 APCDM(Asian-Pacific Conference on Disaster Medicine)から,1996年のJADMの設立で,世界災害救急医学会 WADEM(World Association for Disaster and Emergency Medicine)を併せて 3 階層の研究組織が存在する。JADMは国際的にも認知され,日本の災害医学は世界の三極と評されるに至った。国内でも医学組織として承認され,会員数の増加に平行して多くの成果が認められる。課題は広汎かつ多彩で,災害医療の評価,時系列的展開,教育,啓発などがある。いずれも「減災」が目標で,非医学分野との協働によって達せられるものである。即ち,狭義の減災と広義の減災の両側面から攻めるべきである。最後に私の持論,「ひとつの社会が,まさかのときのためにどこまで投資するかが,その社会の成熟度を決める尺度である。」を以って結語とする。

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