日本救急医学会雑誌
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症例報告
感染性心内膜炎に冠動脈塞栓を合併した1例
大谷 尚之井上 一郎河越 卓司石原 正治嶋谷 祐二栗栖 智中間 泰晴
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2009 年 20 巻 12 号 p. 923-928

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抄録

症例は31歳の男性。来院2日前からの前胸部痛を主訴に当院に救急搬送となった。来院時12誘導心電図における胸部誘導でのST上昇に加え,血液検査上,炎症反応の上昇および心筋逸脱酵素の上昇を認めた。臨床経過,検査所見より急性前壁心筋梗塞を疑い冠動脈造影を行った所,左冠動脈前下行枝#7が完全閉塞していた。カテーテルを用いた血栓吸引等により再開通を試みたが奏効しなかった。翌日,来院時提出していた血液培養よりStreptococcus intermediusが検出された。心臓超音波検査にて僧帽弁逆流に加え,僧帽弁前尖に疣腫と思われる腫瘤影を認めたため,感染性心内膜炎,およびそれに伴う冠動脈塞栓と診断した。その後,僧帽弁逆流の悪化に伴い急速に心不全症状が進行したため,来院3日目に僧帽弁置換術を行った。感染性心内膜炎は高率に塞栓症を引き起こすことが知られており,頻度は低いものの本邦でも冠動脈塞栓合併の報告がある。しかしながら,症例は少なく未だ治療方針は確立されていない。報告ごとに様々な治療が行われているのが現状であるが,治療を誤れば重篤な合併症を引き起こすこともある。心筋梗塞のうち,動脈硬化のリスクファクターがない若年例,感染症状併発例などでは,感染性心内膜炎に伴う冠動脈塞栓の可能性を考え診療に当たり,血管内治療等に関しては疾患に応じた慎重な治療法の選択が必要である。

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© 2009 日本救急医学会
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