2011 年 22 巻 4 号 p. 188-194
症例は31歳の男性。軽自動車を運転中に電柱と衝突して受傷した。通報から25分後に,救急隊によって当センターへ搬入された。搬入時のバイタルサインはJapan coma scale (JCS)300,血圧58/- mmHg,心拍数123/minであった。超音波検査で心タンポナーデと診断し,剣状突起下心嚢開窓術の準備中に pulseless elecrical activity(PEA)に至った。緊急室開胸を行い,右房破裂に対して破裂部を縫合修復した。搬入時の血液生化学検査ではAST 293 IU/l,ALT 184 IU/lと肝逸脱酵素が上昇し肝損傷合併の可能性があると考えられた。受傷から約1時間30分後の腹部造影CTでは門脈周囲に低吸収域を認めたが,他に肝損傷を示す所見はなかった。受傷から約21時間後のCTでは門脈周囲の低吸収域は消失していた。以上のことから門脈周囲の低吸収域は肝損傷ではなく,心タンポナーデによって突発的に肝からの血液流出が障害された結果生じたと考えられた。外傷に伴う門脈周囲の低吸収域に対しては肝損傷の存在を疑うのが一般的であるが,本症例のように肝からの血液流出に障害を来す病態についても考慮する必要がある。