日本救急医学会雑誌
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原著論文
早期血栓閉塞型Stanford A型大動脈解離における虚血性心電図変化
石川 進禰屋 和雄阿部 馨子原田 忠宣上田 恵介李 俊容住永 佳久
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2011 年 22 巻 2 号 p. 56-61

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抄録

【目的】早期血栓閉塞型Stanford A型大動脈解離での手術適応と治療成績に関して,初診時の心電図所見より検討した。【対象と方法】早期血栓閉塞型Stanford A型大動脈解離24例(平均年齢67±2歳)を対象とした。上行大動脈の最大短径は45±21(30-53)mmであった。【結果】1)心電図変化:虚血性のST,T変化は13例(54%)でみられた。内訳は,ST上昇が8例(胸部誘導5例,四肢誘導3例),ST低下が1例(V3,4),陰性T波が4例であった。2)治療成績:虚血性変化のない11例では,上行大動脈径が45mm以上の5例で手術を行った。虚血性変化がみられた13例では,6例が手術,7例が保存的治療となった。胸部誘導でST上昇があった5例中3例で手術が行われたが,2例は術前状態不良のため保存的治療となった。うち1例は腸管および下肢虚血で死亡した。四肢誘導でのST上昇3例と胸部誘導でのST低下1例は保存的に治療した。陰性T波の4例では,上行大動脈径が45mm以上の3例で手術を行った。24例中23例が生存退院した。3)手術所見:11手術例中の4例で上行または弓部大動脈に解離のエントリーがあり,うち3例は胸部誘導でのST上昇例であった。この3例では上行大動脈の解離は全周~4/5周と広範囲で,左右冠動脈入口部周囲にも解離が及んでいた。4)心筋障害:初診時の血清クレアチニンフォフォキナーゼ(CPK)値は,胸部誘導でのST上昇例では2,425±1,576 IU/lと,非虚血例の109±18 IU/lと比べて有意に高値であった。胸部誘導でのST上昇は入院後早期に消失したが,2例では前壁中隔梗塞が残存した。【考察】 血栓閉塞型Stanford A型大動脈解離では,血栓形成の進行に伴って解離腔の内圧が減少するため,心電図上の虚血性変化は一過性となり得る。しかし,胸部誘導でのST上昇は左冠動脈主幹部の圧迫を示唆するものである。【結語】胸部誘導でST上昇のある症例では左右冠動脈周囲に及ぶ上行大動脈の広範囲な解離があり,緊急手術を考慮すべきである。四肢誘導でのST上昇,ST低下および陰性T波の症例では,瘤径が大きくなければ保存的治療を選択し得る。

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