2008 年 37 巻 4 号 p. 234-236
冠動脈起始異常に Stanford A 型急性大動脈解離を発症し緊急手術を行った.症例は61歳,女性である.麻酔導入後に血圧低下,徐脈となり,直ちに胸骨正中切開を行った.心タンポナーデはなく,右心系の拡大と壁運動の低下を認め,右室梗塞を疑い,心臓マッサージ,心外膜ペーシングを行いながら,体外循環を確立し,超低体温循環停止(膀胱温22.3℃)とした.全身冷却中は右室梗塞の進展を防ぐため,外シャント冠動脈灌流カテーテルを用いて右冠動脈に人工心肺血を灌流した.逆行性脳灌流下に上行弓部大動脈置換術と右冠動脈へのバイパス術を行った.大動脈弁は二尖弁であり,右冠動脈は左冠尖洞 Sinotubular junction の高位より起始しており,その起始部は全周性に解離,離断していた.人工心肺の離脱に難渋したが,術後の心機能は良好であり,右室の壁運動異常も心尖部の一部に認めるのみであった.右冠動脈起始異常を伴い,右室梗塞を合併した急性 I 型大動脈解離に対して,外シャントカテーテルを用いた順行性冠灌流を行い,バイパス術を行うことで右室梗塞を最小限にとどめることができ,救命することができた.