日本心臓血管外科学会雑誌
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原著
脊髄虚血における edaravone の有効性の検討
千葉 清幕内 晴朗村上 浩田中 佳世子大沼 繁子田所 衛
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2008 年 37 巻 2 号 p. 82-90

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抄録

胸腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術後の対麻痺は予想しがたい合併症であり,いったん発症するとその後の生活の質 (QOL) は大幅に低下する.中枢神経の虚血性細胞死には虚血-再灌流によって発生するフリーラジカルによる脂質の過酸化障害が関連している.今回われわれは,現在脳梗塞急性期の脳保護薬として認可されている,フリーラジカルスカベンジャーである 3-methyl-1-phenyl-2-pyrazoline-5-one (edaravone) を用い,実験動物の脊髄虚血モデルにおいてその有効性を検討したので報告する.ウサギ(日本白色種)を以下の3群に分けた.手術は開腹下で腹部大動脈を20分間遮断して脊髄虚血を発生させ,そのあと遮断を解除して再灌流させた.単純遮断(20分間)のみ行ったものを A 群(n=6),再灌流30分後に edaravone 3mg/kgを緩除に静注したものを B 群(n=6), B 群に追加して再灌流24時間後,48時間後にも同量を投与したものを C 群(n=6)とした.下肢運動機能は術後24,48時間後,1週間後に Tarlov's score を用いて臨床的評価した.体性感覚誘発電位 (SEP) を術前,虚血後20分,再灌流30分後,術後24時間,48時間,1週間後に測定し,電気生理学的に脊髄機能を相対的に評価した.病理組織学的評価は,1週間後に脊髄を摘出し, HE(Hematoxylin-Eosin) 染色と KB (Klüver-Barrera) 染色,および免疫組織化学的染色で行った. A 群は6匹すべてが完全対麻痺を起こした.それに対して B 群では,術後24時間後までは6匹すべてでほぼ正常な下肢機能を有していたが,1週間後には3匹(50%)で正常な歩行が不可能となった.それに対し C 群では,1週間後も6匹中5匹(83%)で下肢運動機能が維持されていた. SEP は虚血20分後には P1 はほぼ平坦化したが,24時間後には3群ともにSEPの再現が得られた.その後 A 群は全例48時間後に, B 群は6匹中3匹で1週間後に P1 は再度平坦化した. C 群は6匹中5匹で1週間後まで SEP が維持された.病理組織学的には A 群では神経細胞が消失し, B 群ではグリア細胞の活性化が認められたのに対し, C 群のみが正常な神経細胞とグリア細胞が維持されていた.以上より, edaravone の投与が虚血-再灌流障害を抑え,脊髄保護として臨床的および病理組織学的に有効であり,反復投与はその効果をさらに高めることが示唆された.

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