2009 年 38 巻 1 号 p. 17-21
症例は26歳男性.血液検査上の好酸球増多と心不全症状を主訴に当院に来院した.精査の結果,好酸球増多症および高度僧帽弁閉鎖不全症が指摘された.画像上,左室内膜に炎症が進展し,そのために僧帽弁後尖の可動域が失われ相対的に僧帽弁前尖が逸脱していると判断した.原疾患である好酸球増多症は稀な疾患であるが,それ自体が血栓塞栓症の大きなリスクとなる.今回は若年者であり形成術を第一選択とした.術中僧帽弁後尖は左室内膜と一塊になっており剥離困難であったが前尖は正常であったため,down-sizeの弁輪縫縮による前尖の単弁化を行った.術後心エコーでは僧帽弁逆流は軽度となり心不全症状も改善した.また術後血栓塞栓症回避のために原疾患である好酸球増多症のコントロールも重要と考え,FIP1L1-PDGFRα 融合遺伝子陽性の好酸球増多症候群に有効なImatinib mesilateの内服をワーファリンと共に早期より開始した.現在術後10カ月が経過しているが,術後血栓塞栓症は発症していない.適切な術式の選択とワーファリンでの抗凝固療法,そして好酸球増多症候群自体のコントロールが術後血栓塞栓症回避に有用である.