日本心臓血管外科学会雑誌
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症例報告
弓部置換術後人工血管感染に対し前胸部小開胸ドレナージが有効であった2例の検討
砂田 将俊伊藤 敏明前川 厚生藤井 玄洋吉住 朋星野 理
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2011 年 40 巻 3 号 p. 135-139

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抄録

弓部置換術後の人工血管感染は重篤な合併症であり,治療抵抗性の場合が多い.しかし,人工血管の再置換は侵襲が大きく高齢者,全身状態不良な患者には困難である.今回,我々は弓部置換術後の人工血管感染2症例に対し前胸部小開胸ドレナージ,間歇的胸腔洗浄を施行し良好な結果を得たので報告する.手術は左第三肋間開胸でアプローチ.人工血管周囲組織を剥離後に洗浄ドレナージを施行した.人工血管中枢側,末梢側に1本ずつ洗浄用ドレーンを留置した.左胸腔内に洗浄用ドレーンを留置し終了.術後,イソジン希釈液,ピオクタニン希釈液を用いて胸腔洗浄を行った.症例1は82歳,男性.2005年11月に弓部大動脈瘤破裂にて弓部置換術を施行した.2008年3月から発熱があり,前医にて人工血管感染の診断で当科へ紹介された.4月9日に前胸部小開胸アプローチにてドレナージを施行した.術後9日間イソジン希釈液を用いて胸腔洗浄を施行した.10日目からは生理食塩水で胸腔洗浄を施行した.術後13日目で洗浄を終了した.術後30日目で退院となった.症例2は58歳,男性.弓部大動脈瘤にて12年前に弓部置換術を施行した.2009年3月16日から発熱,下肢筋肉痛があり近医を受診した.精査にて人工血管感染の診断で当科へ紹介された.3月24日前胸部小開胸にてドレナージを施行した.血液培養からはMSSAが検出された.術翌日からイソジン,ピオクタニン液で胸腔洗浄を施行した.術後10日目からイソジン液洗浄に変更した.炎症反応が軽快したため術後34日目で胸腔洗浄を終了した.術後64日目に退院となった.2症例ともドレナージ施行後,持続洗浄と抗生剤使用にて炎症反応軽快,全身状態の改善を認めた.また両症例とも2010年9月15日現在まで感染の再発はみられていない.弓部置換術後人工血管感染に対する前胸部小開胸アプローチは低侵襲であることに加え,胸骨再正中切開を回避できる,弓部人工血管全長に対し良好な視野を得ることができるなどの利点があり有効と考えられた.

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