2011 年 40 巻 5 号 p. 240-243
症例は79歳,男性.以前,大動脈弓の走行異常を指摘されたことがあったが,特に症状はなく経過観察されていた.最近になり,嗄声を自覚,近医耳鼻科医にて右反回神経麻痺を指摘された.精査にて弓部大動脈の拡大によるものと診断され,当科受診となった.心内奇形を認めず,弓部分枝は鏡像的であり,食道背側を通過し,左側下行大動脈となるが,弓部全体が拡大し,最大径は60 mmほどであったため,破裂の危険性を考慮し手術適応とした.手術は胸骨正中切開にて行い,上行大動脈送血にて,下半身循環停止,順行性選択的脳灌流を用いて,食道左側に人工血管を通し,弓部全置換を施行した.術後経過は順調であった.比較的稀な,食道背側を経由し,鏡面的な分枝を伴う弓部大動脈瘤に対する手術を経験したので報告する.