奈良県大台ヶ原において,ニホンジカ(Cervus nippon)の主要餌であるミヤコザサ(Sasa nipponica)の稈にゴールを形成するタマバエ(Oligotrophini族)の生残と,これに寄生する2種の寄生蜂,Pediobius sasaeとTorymus sp.の寄生を防鹿柵内外で比較した。シカの採食は間接的にゴールの幅を小さくしていた。防鹿柵内では柵外と比べるとタマバエの生残率が高く,Torymus sp.の寄生率も高かったが,P. sasaeの寄生率は低かった。P. sasaeの寄生は,防鹿柵内では幅の小さなゴールに集中していたが,柵外ではゴール幅に関係なかった。Torymus sp.はP. sasaeよりも産卵管が長く,羽化が短期間で完了した。これらのことから,タマバエとTorymus sp.は,P. sasaeの短い産卵管では届かないような大きなゴール内では生残でき,これが防鹿柵内外の生残率と寄生率の違いを生じさせていると考えられた。このように,シカによるミヤコザサの採食は,間接的にゴール幅を小さくし,P. sasaeの寄生を助長して,タマバエの生残とTorymus sp.の寄生を妨げていた。