症例は77歳の男性で,主訴は黒色便で,近医での上部消化管内視鏡検査で胃前庭部前壁に2型腫瘍を認め,生検にて胃癌と診断された.手術目的に当院を紹介受診し,幽門側胃切除,D2郭清,Billroth I法再建を施行した.病理組織学的に乳頭腺癌,pT2(pSS),pN0, M0, Stage IBの診断であったが,空隙に囲まれた異型性の強い微小乳頭状の癌胞巣を認める浸潤性微小乳頭癌(invasive micropapillary carcinoma,以下IMPCと略記)の像が癌腫の50~60%を占めていた.免疫染色では,epithelial membrane antigen(EMA)が癌胞巣外縁に陽性となった.術後補助療法は施行せず,術後6か月時の血液検査において,腫瘍マーカーが上昇し,CTにて多発肝転移を認めた.術後1年の現在,TS-1の内服治療中である.IMPCは乳腺,肺,尿路,唾液腺,大腸で報告されているが,胃癌での報告は極めて少なく,一般に,IMPCは高頻度にリンパ管侵襲,リンパ節転移を伴う予後不良の癌腫と考えられている.若干の文献的考察を加え報告する.