日本医真菌学会雑誌
Online ISSN : 1882-0476
Print ISSN : 0916-4804
ISSN-L : 0916-4804
総説
宿主からの攻撃に対抗するAspergillus fumigatus の戦略
-具有する飛び道具と鎧-
豊留 孝仁渡辺 哲岩崎 彩亀井 克彦
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 50 巻 3 号 p. 139-145

詳細
抄録

ヒトは絶えず,環境中の真菌を吸入している.健常人では吸入された菌体が速やかに生体防御機構により排除されるが,免疫機能が破綻すると病原真菌はその防御機構を突破し,ヒトの体を制圧する.主要な病原真菌には病原因子産生などの感染を成立させるためのメカニズムが存在する.Aspergillus fumigatus においてもいくつかの病原性を規定する因子が報告されている.
病原因子の一つはA. fumigatus が産生する様々な二次代謝産物である.A. fumigatus の培養上清は強力なアポトーシス誘導活性を有しており,マクロファージなどの生体防御に関わる細胞群のみならず,肺の上皮細胞をも傷害することが分かってきている.このことからA. fumigatus が肺における物理的バリアーおよび免疫学的バリアーを破壊しながら感染成立へ向けて邁進している様子が窺える.
一方,真菌の細胞壁成分は病原体関連分子パターン(PAMPs)として宿主が病原体を認識する格好の標的である.その中でもβ-(1,3)-グルカンは宿主細胞において炎症性サイトカインの産生誘導を起こす,主要なPAMPsである.A. fumigatus のβ-(1,3)-グルカン構造は膨化分生子において強く露出されるが,菌糸においてはこの構造の露出は弱く,これは宿主からの攻撃を回避する機構として働いているのではないかと考えられる.
このようにA. fumigatus は宿主に対する攻撃と守りという二つの要素を併せ持ち,このメカニズムを巧妙に利用しながら感染を成立させている.

著者関連情報
© 2009 日本医真菌学会
次の記事
feedback
Top