日本鳥学会誌
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原著論文
クマタカSpizaetus nipalensisの繁殖成功率の低下と行動圏内の森林構造の変化との関係
飯田 知彦飯田 繁毛利 孝之井上 晋
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2007 年 56 巻 2 号 p. 141-156

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抄録

西中国山地に生息するクマタカの繁殖成功率は,国内他地域と同様に,近年急激に低下している.本地域の1981~2005年の長期の調査データを用い,選出した3つがいで繁殖成功率と推定行動圏内の植生構成との関係を分析した.代表的な餌動物の生息状況,巣への直接的な人為的影響,繁殖個体群の高齢化,気象条件,営巣環境の悪化が繁殖成功率に及ぼす影響も同時に分析した.行動圏内の10種類の植生のうち,面積から繁殖に影響を与える植生は5年生以下・10年生以下の幼令植林地,10年生以上の成長した植林地,アカマツ,広葉樹林の5種類と考えられた.1つがい(A)の行動圏では,クマタカの採餌に適した利用可能な植生の5年生以下・10年生以下の幼令植林地の面積は1980~1990年に21.8%減少し,逆に利用困難な植生の10年生以上の成長した植林地の面積は25.0%増加した.そして1990年代に利用可能な植生面積が利用困難な植生面積を下回ると繁殖に成功しなくなった.以上のことから,近年のクマタカの繁殖成功率の顕著な低下は,利用可能な植生構成である森林の減少と利用困難な植生構成である森林の増加が主要な原因と考えられる.餌動物の調査結果と繁殖成功率から,利用困難な植生である成長した植林地も,適切に間伐や枝打ち等が行われれば,ある程度クマタカが利用可能なことが示唆された.繁殖成功率の向上のためには,餌動物が多く生息する広葉樹林の面積を多く確保することと,適切な林業が行われることを含め,利用可能な植生面積が行動圏内の植生面積の50%以上,少なくとも400 haを下回らないことを目標に採餌適地の維持造成あるいは森林管理が必要と思われる.

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© 2007 日本鳥学会
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