本研究では,広域的に移動するカワウPhalacrocorax carboにおいて,山梨県で発見された標識個体の記録から,沿岸域を中心とする大規模コロニーから内陸部への移入および飛来の傾向を調査した.2003年から2008年までの間に,銃器による捕獲で8個体,釣り針による捕獲で2個体,観察により3個体,計13個体の標識されたカワウが発見された.発見された水系別にみると,駿河湾に注ぐ富士川水系では,5個体全てが愛知県以西で標識された個体であった.一方,上流域が山梨県東部にあり相模湾,東京湾へと注ぐ相模川および多摩川では,8個体の標識されたカワウは,全て関東地方沿岸域で標識された個体であった.富士川と相模川,多摩川とで,カワウの標識された地域には明瞭な差異がみられ,富士川水系へは中部,近畿地方から,相模川,多摩川水系へは,関東地方から移入または飛来することが示唆された.本研究のように,カワウへの標識の装着が実施されていないエリアでも,既存の捕獲個体データからの標識個体情報の抽出や,観察による標識個体の発見は十分に可能であると考えられる.各地域での発見記録が集約されれば,広域的な移動経路が解明されるであろう.