2009 年 70 巻 7 号 p. 2061-2065
肛門周囲膿瘍は,日常診療で比較的よく遭遇するが,鼠径部に膿瘍を形成することは非常に稀な病態であり,検索したかぎり1例も認めない.症例は45歳の男性で,既往は特に認めない.肛門痛を主訴に来院し,肛門周囲膿瘍の診断で同日切開排膿を施行した.切開後,痛みは一時軽快したが,発熱が持続し,切開排膿から12日目に右鼠径部痛を自覚するようになった.骨盤部造影CTでは右鼠径部にガスを含んだ液体貯留を認め,前立腺や膀胱の左側の瘻孔の存在を疑わせるガス像と連続していた.注腸造影X線検査では,肛門管から瘻孔が造影され,膿瘍も造影された.以上から,肛門周囲膿瘍から鼠径部膿瘍を形成したと診断し,膿瘍切開,人工肛門造設を施行した.術後経過は良好で入院から49日目に退院した.6カ月後の注腸造影X線検査で瘻孔は消失していたため,人工肛門を閉鎖した.その後2年経過するが,再発は認めない.