背景 : 甲状腺好酸性細胞型濾胞癌は, 明瞭な濾胞構造から充実性増殖するものまで多彩である. 今回われわれは, 穿刺吸引細胞像を検討する機会を得た, 索状構造が顕著な好酸性細胞型濾胞癌の 1 例を報告する.
症例 : 71 歳, 女性. 超音波検査で多発性甲状腺腫瘤を指摘されていた. 右葉上極腫瘤からの穿刺吸引細胞診では, きれいな背景に, 大型で不規則重積性を示す細胞集塊が点在し, 索状構造や transgressing vessels が認められた. 細胞境界が不明瞭な腫瘍細胞が, 合胞体性集塊を形成しており, 裸核も散見された. 腫瘍細胞は比較的小型均一で, 細胞質は顆粒状を示し, 核小体は小型だが明瞭であった. 組織学的に, 腫瘍は径 1.2 cm で, 高度の静脈浸潤を伴い多結節性に広汎浸潤する好酸性細胞型濾胞癌であった. 術後約 12 ヵ月が経過した時点で再発や転移は認めていない.
結論 : 穿刺吸引細胞像で好酸性細胞型腫瘍の推定は可能であり, 本例でみられた豊富な細胞量, 不規則重積性の細胞集塊, 細胞境界が不明瞭な小型細胞, 明瞭な核小体は悪性を示唆する所見と考えられた. 好酸性細胞型濾胞癌の細胞診では, 低分化癌でみられるような孤立散在性細胞は目立たず, 細胞結合性の評価が両者の鑑別に有用であった.