水文・水資源学会誌
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研究ノート
森林群落で計測される乖離率 (decoupling factor) の値
小松 光
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キーワード: 乖離率, 森林, 蒸発散, 樹冠
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2003 年 16 巻 4 号 p. 423-438

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抄録

乖離率 (decoupling factor) Ωは, Penman-Monteith式における放射項, 移流項それぞれの蒸発散速度に対する貢献度合いを表現する指標であり, 植物群落における蒸発散速度の計測·モデル化の効率化に示唆を与える. 森林群落においてΩは一般に0.1から0.2 (つまり, 森林の蒸発散はおもに移流項によって生じる) と言われているが, 実際には, その一般性は明らかでない. そこで, 既存の文献に報告されているΩの値をまとめることを通じて, 森林のΩは0.1から0.2である, という理解の一般性を検証した. 既存の文献から, 広葉樹林15例, 針葉樹林20例, 合計35例のΩの値が得られた. 針葉樹林において, Ωが0.2を超えるものは, 20例中4例 (20%) と少なかった. これに対して, 広葉樹林において, Ωが0.2を超えるものは, 15例中9例 (60%) と多く, 畑地の一般的な値であるΩ=0.4∼0.7となるものも, 15例中4例 (27%) と珍しくなかった. このように, 森林のΩは0.1から0.2である, という理解は, 針葉樹林において一般性が高いものの, 広葉樹林において一般性が低いことが明らかとなった. このことから, Ωが小さいことを前提に行われる計測·モデル化の簡略化は, 広葉樹林へ適用された場合, 蒸発散速度, あるいは, 表面コンダクタンスの算定に大きな誤差を生む可能性があることを指摘し, こうした簡略化の広葉樹林への適用に注意を促した.

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© 2003 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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