数理社会学は,社会規範の発生メカニズムを扱うことができるし,むしろ積極的に扱っていくことが期待されている.社会規範は社会のセメントとして役立っているが,これまで社会学は「すでにあるもの」と仮定することが多かった.しかし,もし社会規範がどう生まれて変化していくのかをあきらかにできないと,ひとびとの行動や社会現象を理解するときに誤解する危険がある.いっぽうもし解明すれば,秩序問題という社会学の根本問題を解決できるであろう.そこで,1つの有望な戦略として,社会規範の発生を「選好形成」と捉えて,社会規範の内面化をモデル化することを提案する.そうすることで,理論的には合理的選択理論やゲーム理論の成果を継承できるし,方法論的にはマイクロな行動をマクロな構造へと架橋できる.そのとき,「ピンポイントの数理モデル」を立てて,研究対象を狭く深く限定することがふさわしい.こうした検討をとおして,「望ましい社会とはなにか」という問いにも,貢献できる可能性がある.