2008 年 51 巻 6 号 p. 447-451
鼻中隔膿瘍は, 比較的稀な疾患となりつつあるが, 早期診断・治療がなされなければ, 鞍鼻や非常に稀ではあるが髄膜炎, 海綿静脈洞血栓症, 敗血症などの重篤な合併症を引き起こす可能性のある疾患であり注意を要する。今回, 鼻中隔膿瘍を発症した1症例を経験したので報告する。症例は56歳女性で主訴は両鼻閉, 鼻痛であった。近医にて下垂体腺腫を発見され, 平成20年4月2日, 当院脳神経外科にて全身麻酔下に右経鼻的下垂体腺腫摘出術を施行した。5月上旬から鼻閉感, 鼻部圧痛を認め, 5月13日に脳神経外科を受診し, 同日当科紹介となった。前鼻鏡所見では, 両側鼻中隔粘膜は高度に腫脹し鼻腔全体を閉塞していた。副鼻腔造影CT検査にて, 鼻中隔膿瘍と診断した。局所麻酔下に切開排膿ドレナージ術を施行し5月21日に退院となった。本症例の原因としては, 手術のアプローチ部位よりも前方にあり特発性とも考えられるが, Hardy鼻鏡挿入などの術中操作による鼻粘膜の損傷が原因と思われ, 手術による影響が考えられた。また, 幸い重篤な合併症も起こさず治癒したが, 鞍鼻を生じてしまったことは残念であった。