日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者の疾病と死因
久山町の成績から
尾前 照雄上田 一雄
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1985 年 22 巻 3 号 p. 207-217

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抄録

久山町住民間の老年者を用いて, その生理・生化学的特徴, 疾病, 死因について検討した. 対象とした集団は1961年, 1978年の断面調査時における満40歳以上の男女住民それぞれ1,621人, 2,190人であった. 追跡調査では1961年に設定した満40歳以上の男女1,621人 (第1集団) と, 1974年の同年齢階層の男女2,053人 (第2集団) について, 8年間の成績を比較した. また, 1961年から1981年の20年間における乳幼児を除く久山町住民連続剖検769例を用いて, 臓器重量の経年的変化や, 老年者疾病の特徴について分析した. 40歳以上の各年齢層毎に比較すると, 比体重は加齢とともに減少し, 同一個体の追跡結果では, その程度は男により著明であった. 30歳以上の連続剖検例について臓器重量の経年的変化をみると, 脳・肝・腎重量は加齢とともに減少したが, 心重量にはその傾向がみられなかった. 血液生化学値の加齢変化には男女差がみられたが, 男女共通に加齢とともに上昇するのはアミラーゼ, BUN, クレアチニンであり, 減少するのはアルブミン, LAPであった. 老年者の血圧については, 収縮期血圧は加齢に伴い上昇すると考えられたが, 老年期における変動には個体差が大きかった. 心血管系疾患に対する高血圧のリスクは老年者では減少するが, 収縮期血圧の上昇は, 心血管系疾患の危険因子として無視できなかった. 日本人における三大成人病の脳卒中, 心疾患, 悪性新生物の死亡率は加齢とともに増加した. しかし近年久山町住民間では高齢者死亡率の減少がみられ, 脳卒中死亡率の減少が一部関与していた. 老年者の脳卒中, 心疾患, 悪性新生物には, 症状の発現様式が典型的でない, 重複病変が多く存在する, これらの疾病によりADLが制限される, などの特徴があった. 剖検例における血管性痴呆, 老年痴呆の頻度はそれぞれ3.8%であり, 老衰は1.2%であった. 肺炎は合併病変として老年者の生命予後に重大な影響をおよぼした.

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