日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者死亡例の血液生化学値
久山町における高齢者死亡例と生存例との5年間の血液生化学値変化の比較
蓮尾 裕上田 一雄藤井 一朗梁井 俊郎清原 裕輪田 順一河野 英雄志方 建竹下 司恭廣田 安夫尾前 照雄藤島 正敏
著者情報
ジャーナル フリー

1986 年 23 巻 1 号 p. 65-72

詳細
抄録

昭和48・49年及び昭和53年の久山町検診を受診した満60歳以上 (昭和53年検診時) の一般住民で, 両検診の血液生化学値が検討できた男女818名を対象にし, 昭和53年から昭和56年11月30日まで追跡調査した. 両検診時の血液生化学値と, 同一個体の両検診間での変化値について, 追跡期間中に死亡した57名と生存例761名の2群のあいだで年齢補正を加えて, 男女別に比較検討した.
昭和53年検診時の血液生化学値18項目中, 男性死亡例ではアルブミン, 尿素窒素の低値とGOT, GPT, TTT, ALP, LAPの高値がみられ, 一方, 女性死亡例ではアルブミン, カルシウムの低値がみられた.
生存例の両検診間の生化学値の変化を基準にして, 死亡例についてみると, 男性ではアルブミン (-0.2g/dl), 尿酸 (-0.5mg/dl), Na (-2.2mEq/l), Ca (-0.3mg/dl) の低下, 女性ではアルブミン (-0.2g/dl), Ca (-0.3mg/dl) の低下を認めた. これら死亡例にみられた5年間の生化学値変化は, 生存例に比べて有意であった (p<0.05).
死亡例を悪性新生物死亡 (23例), 心血管系疾患死亡 (15例), その他の死因による死亡 (19例) に分類し, 生化学値の個体内変化を生存例のそれと比較した. 前記4項目について, 疾患の種類による特異的な変化はみられなかった. 死亡例を脳卒中後遺症, 寝たきり, 手術の既往歴の有無によって2群にわけ, 各群での生化学値の変化を生存例と比較した. このような後遺症や既往歴を持つ群で, 生化学値の変化が必ずしも大きいとはいえなかった. 以上のことから, 死亡例にみられた血液生化学値変化は, 生前の合併症や疾病の種類に基づくとは考え難く, 死亡例にみられたより進んだ老化過程にむしろ関係があると考えられる.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top