日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
僧帽弁逸脱症の臨床像と予後
年齢と合併症の関連性
土居 義典小田原 弘明楠目 修近森 大志郎米沢 嘉啓小沢 利男
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1988 年 25 巻 5 号 p. 474-479

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抄録

目的・方法: 僧帽弁逸脱症 (MVP) は若年者に多い予後良好の疾患とされているが, 重症僧帽弁閉鎖不全症 (MR), 脳血栓症, 突然死などをきたす症例もあり, 必ずしも予後良好とも言いきれない. そこで, これらの重大合併症をきたす因子の一つとして, 年齢を考慮し, 以下の検討を行なった. 対象は過去4年間に断層心エコー法にてMVPと診断された53例 (男22例, 女31例, 年齢21~77歳) である. これらを39歳以下の19例 (若年群), 40~59歳の18例 (中年群), 60歳以上の16例 (高年群) の3群に分け, 臨床所見を比較検討し, 平均24.7±15.4カ月の経過観察を行なった.
結果: (1)症状: 若年群では6例に動悸を認めたが, 8例は無症状であった. 中年群では8例に動悸, 4例に息切れ, 高年群では8例に動悸, 6例に息切れを認めた. (2)心雑音: 若年群では収縮後期雑音12例に対し, 中年群, 高年群では汎収縮期雑音が各々10例, 8例を占めていた. (3)心胸比は若年47.4±5.5%に対し, 中年54.6±6.4%, 高年57.4±9.6%と拡大を示した. (4)心エコー上左房径は若年3.1±0.5cmに対し, 中年4.0±0.7cm, 高年4.4±0.7cmであり, 左室拡張末期径は若年4.7±0.5cmに対し, 中年5.5±0.7cm, 高年5.4±0.4cmとともに中高年群で有意の高値を示した. (5)経過観察中, 心不全の進行は, 若年1例, 中年2例, 高年4例の計7例にみられ, うち2例が死亡, 4例に僧帽弁置換術が施行された.
結語: 中高年群では息切れ, 動悸を訴える頻度が高く, 心胸比も有意に拡大し, 潜在性心不全の存在が疑われた. さらに汎収縮期雑音が多く, 左房・左室径とも有意に拡大し, 若年群に比しより高度のMRの存在が示唆された. 高年群では経過中, 重症MRのため心不全の進行する例も比較的多く, 外科治療も含め注意深い経過観察が必要である.

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