日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者進行非小細胞肺癌に対するシスプラチン併用療法
併用薬剤 Vindesine 及び Etoposide による比較検討
寺本 信嗣長瀬 隆英福地 義之助石田 喜義山岡 実松瀬 健徐 中宇折茂 肇
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1990 年 27 巻 6 号 p. 680-686

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抄録

我々は, 老年者進行肺癌症例に対してシスプラチン併用療法を行っており, その有効性, 安全性については既に報告した. 今回, 進行非小細胞肺癌に対するシスプラチン併用療法を併用する薬剤により2群 (Vindesine 投与群と Etoposide 投与群) に分け, その効果と副作用の検討を行った. 対象は65歳以上の老年者進行非小細胞肺癌15例 (70.7±1.2歳, 男10例, 女5例, 病期: IIIb 4例, IV期11例) であり, Vindesine 投与群 (以下V群) 7例, Etoposide 群 (以下E群) 8例であった. 効果判定では, 部分寛解 (PR) 症例をE群でのみ25%で認め, 他は全て不変であり悪化症例はみられなかった. 化学療法後の6カ月生存率は, V群85.7%, E群87.5%, 一年生存率はV群57.1%, E群50%であり, 両群間に有意差はなかった. シスプラチン投与量は1回投与量が50mg/m2または80mg/m2で, 平均投与量はV群54.3±3.5, E群72.5±4.9 (mg/m2) でありE群で有意に多かった. 副作用として嘔吐は, V群71.4%, E群62.5%で有意差なく, また食思不振を全例に認めた. 投与後の骨髄抑制は極小値 (Nadir) において, 白血球数はV群2,100±366, E群2,013±214 (/mm3) で有意差がなく, 投与後血色素量 (V群10.9±0.6, E群10.5±0.5 (g/dl)), 血小板数 (V群19.6±4.1, E群17.0±3.5 (×104/mm3)) 共に有意差はなかった. 化学療法後 Nadir までの期間は, V群13.8±0.8, E群15.9±3.0 (日) で両群間に有意差なく, Nadir より骨髄機能回復までの期間も両群間で有意差が無かった. 腎機能については, 投与後NAG, BUN, クレアチニンはいずれも両群間で有意差を認めなかった. またクレアチニンクリアランスについては投与前が, V群60.1±4.5, E群64.9±8.8 (ml/min) に対し, 投与後はV群38.8±6.1, E群48.9±5.1(ml/min) であり, 有意差は認めなかったが, E群で腎機能が保持されている傾向がみられた. 以上より老年者進行非小細胞肺癌に対するシスプラチン療法の際の併用薬剤としては, Vindesine, Etoposide の間に副作用の点で差はなく両者ともに現在の投与量での安全性が示唆された. さらに, 副作用は同程度以下でありながらCDDP投与量を有意に増加することができ, 部分寛解症例をE群のみで認めたことから,Etoposide 併用シスプラチン療法の方が抗腫瘍効果が大きく, 老年者において, より full dose に近い強力な化学療法を行い得る可能性が示唆された.

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