林學會雑誌
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苗木の上長生長と氣象との關係に就て
佐多 一至
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1928 年 10 巻 11 号 p. 598-618

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抄録

(一) 苗木の上長生長の開始、休止の時期は、樹種により異るのみならず、年によりても異るものとす。
(二) 苗木の定期上長生長の一般傾向、竝生長旺盛時期も、樹種により異るものにして、場内産スギの如く六月乃至十月の日射強く、温暖なる時期に旺盛なる生長をなすものあり、又石川縣産スギの如く七、八月に一時生長衰へ、春秋二季に旺盛なる生長をなすものあり、又ヒノキ、サハラの如く、春季乃至初夏に旺盛なる生長をなし、以後漸次生長衰ふるものあり、又クロマツの如く、一ケ年間に於ける伸長量の殆ど全部は春季に了るものあり、又カシ類の如く、週期的生長をなすもの等ありて一定せず、是等は寧ろ已性的のものと解するを得るが如し、而してカシ類の一ケ年間に於ける伸長囘數は、幼齢木程大にして、樹齢を重ぬるに從ひて減少す、但一伸長期間は幼齢木程短し。
(三) 苗木の肥大生長は.上長生長と異り、各樹種共に近似の生長經路を示し、早春に稍旺盛なる生長を示すも、特に夏季の日射強く、温暖なる時期に最旺盛なる生長をなすもの多きが如し。
(四) クロマツの如く、春季短期間に過半の伸長を了する樹種は、前年の貯藏養分により、又シラカシの如く週期的生長をなす樹種は、伸長休止期間の貯藏養分により、其の大部分の伸長をなすものゝ如し。
(五) 林木の生長と氣象因子との關係は,單に上長生長のみに止めず、肥大生長との關係をも調査するにあらざれば、應用上價値ある結果を得難し、但供試木は常に優勢を占むる林木を選ばざるべからず。
(六) 苗木の上長生長と、氣象因子との關係を調査する爲に伸長測定をなす場合には、伸長期間の長き樹種にありては、測定日の間隔を長くするも不可なきも、短期間に伸長を了する樹種にありては、測定日の間隔を短縮するに非ざれば、氣象因子との關係を見出し得ざる場合あり。
(七) 苗木は、諸種の氣象因子特に氣温.水分の綜合影響を受けて伸長するものにして、決して氣温のみ又は水分のみと云ふが如き,單一の氣象因子の影響を受けて伸長するものにはあらず、即ちF. F. Blackman氏Controlling limtting factorの原則は、或範團内に於て,林木の上長生長と氣象との關係にも適用し得るものゝ如し、故に乾燥せる地方又は年に於ては,上長生長と降水量との間に,正の相關々係を示し、多雨地方又は多雨の年には、逆に氣温との間に正の相關々係を示すことは、起り得る問題とす。
(八) 日射量と最高次の正の關係を示す蒸發量は、直接上長生長を促進する因子とは認め難し、但日射と炭素同化作用との間には、密接なる關係存するは、既知の事實なるを以て,間接には生長に對し、重要なる役割を有するものと云はざるべからず。
(九)供試の針葉樹苗のみに就て見れば、上長生長は、夜間の氣温と特に高次の正の相關々係の存在を示すもの多く、又供試のシラカシは、逆に書間の平均氣温と特に高次の正の相關々係の存在を示せり,是前者は、夜間にも書間以上に伸長する傾向あるに對し。後者は、寧ろ書間に多量の伸長をなしたるに因るものにはあらざるなきか。
(十) 土壤の乾燥に對する感度.即ち土壤の水分に對する要求度は樹種により異るものの如し。

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