日本医真菌学会雑誌
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老人ホーム入居者および職員にみられたTrichophyton violaceum感染症
角谷 廣幸角谷 孝子望月 隆
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2005 年 46 巻 4 号 p. 279-284

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抄録

特別養護老人ホームの入居者1人,ショートステイ利用者1人,職員の1人にTrichophyton(以下T.)violaceumによる白癬が,職員の1人に同菌によると推測される白癬を生じた.さらに入居者の2人が同菌のキャリアであった.症例1:66歳女性.老人ホーム入居者.1ヶ月前に頭部に落屑性紅斑が生じ,その後徐々に顔面,頚部,躯幹に拡大した.頭部に毛孔一致性に黒点が多発.黒点部より摘出した毛髪のKOH所見は毛内性大胞子菌性寄生の像.形態及びPCR-RFLP法にてT.violaceumと同定し,同菌による頭部白癬及び体部白癬と診断.症例1と接触した可能性のある入居者21人,職員38人にヘアブラシ法を含む検診を施行した結果,入居者の85歳女性(症例2)の頭部,83歳女性(症例3)の頭部,職員の23歳男性(症例4)の右前腕からT.violaceumを分離.菌は分離されなかったが臨床的に右前腕の白癬が疑われる職員の24歳男性(症例5)の4人が新たに見出された.さらに症例1の初診の約1年後にショートステイ利用者の88歳の女性(症例6)にT.violaceumによる頭部白癬の発症が確認され,この老人ホーム関係者内で菌が保持されていた可能性が示唆された.PCR-RFLP法は短時間で同定結果が示されるため,治療法の選択や介護の際の注意をするため菌種による配慮が早めにでき有用であった.今回の集団感染の原因として,介助による皮膚の接触,洗髪の際のヘアブラシの共用による菌伝播の可能性が考えられた.

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