日本鳥学会誌
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森林における鳥をめぐる生物間相互作用ネットワーク
日野 輝明
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2001 年 50 巻 3 号 p. 125-144

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抄録

生物間相互作用が3者間以上になると,直接的な相互作用をもたない2種類の生物が,第3の生物との相互作用を介して間接的な影響を受けるようになる.このような間接効果には,見かけの競争,トロフィック•カスケード,キーストーン捕食,資源消費型競争,ボトムアップ効果,見かけの相利関係などがある.直接的および間接的な相互作用で結ばれた生物間のつながりが,生物間相互作用のネットワークである.森林の鳥では,調査が困難であるにもかかわらず,この10年くらいの間に3者以上の相互作用ネットワークについての研究が少しずつ増えてきた.
鳥が植食昆虫を捕食することで植物の生長や生存率に正の効果をもたらすこと,逆に,植物の昆虫に対する防御が,鳥の昆虫に対する採食行動を変化させることが明らかにされてきている.この3者間の関係はまた,植食昆虫を捕食する節足動物(アリ,クモ,寄生バチ)を,鳥がどの程度捕食するかで違ってくることも示唆されている.鳥による種子散布の効果もまた,果実が昆虫や菌類にすでに捕食された果実を選好するか忌避するかで違ってくるが,これまでの調査結果から両方のタイプがあることが分かっている.個体群の長期動態の調査では,鳥以外の餌生物の個体数の増加が肉食性哺乳類の密度の増加をもたらした結果,鳥の密度が減少することが示された.他の生物による環境改変が鳥の行動や個体数に影響を及ぼす場合や,逆に,鳥による環境改変が他の生物に影響を及ぼす場合があることも知られている.
鳥の個体群や群集の動態の把握のためばかりでなく,森林における生物多様性の保全のためにも,森林の鳥をめぐる生物問ネットワークについての解析が,野外での操作実験と長期研究によって今後さらに進められていく必要がある.

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