日本鳥学会誌
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アオジの配偶者防衛行動
小岩井 彰
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2003 年 52 巻 1 号 p. 13-23

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抄録

一夫一妻制のアオジの行動圏の重複,交尾行動および配偶者防衛行動を1992年4~7月に長野県菅平湿原(北緯36°32′,東経138°20′,標高1,250m)において調査した.雄は安定した行動圏を持ち,その中にソングエリアがあった.しかし,隣接雄による番い外交尾を求める侵入が多いため行動圏は互いに大きく重複した.ソングエリアも相互に重複した.雄のさえずり頻度は番い形成後に低下した.そのためソングエリアがなわばりとして維持されているとは考えにくい.雄は雌との距離を短く保ち,雌の後を追うことで配偶者防衛行動を行なった.番いの雌雄の個体間距離の短さと雄が雌に従う割合は推定受精可能期にピークがあったが,配偶者防衛行動は番い形成直後から推定受精可能期にかけて継続的に観察された.番い交尾29例は,すべて推定受精可能期に観察された.隣接雄による番い外交尾の試みが原因の雄同士の争いは受精可能期前も受精可能期と同様に頻繁におこり,番い外交尾の半分(10例中5例)は,受精可能期前に観察された.これらの結果は,アオジの雄は排他的空間であるなわばりよりむしろ雌を防衛し,機会があれば番い外交尾を試みていることを示唆している.ブッシュや草本の繁茂した見通しのきかない環境に生息するアオジにとって配偶者防衛行動となわばり行動を同時進行させることは困難と考えられる.アオジの雄は番い形成後から番い外交尾の試みに対し攻撃的に反応し,抱卵も雄が行ない子育ての投資が大きい.さらに,個体群の性比は雄に偏っていた.それゆえ,雄はなわばり防衛より父性確保のための配偶者防衛行動を優先したと考えられる.

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