日本鳥学会誌
Online ISSN : 1881-9710
Print ISSN : 0913-400X
ISSN-L : 0913-400X
鳥類における協同繁殖様式の多様性
江口 和洋
著者情報
ジャーナル フリー

2005 年 54 巻 1 号 p. 1-22

詳細
抄録

長期個体群動態研究の拡大と遺伝学的血縁解析手法の導入により,鳥類の協同繁殖の研究はこの30年間ほどで大きく発展し,多くの研究成果が発表されている.現在,協同繁殖が知られている鳥類は350種(全鳥類の3.9%)を超える.協同繁殖の起源と維持に関わる生態的要因と系統の問題,様式の多様性,手伝い行動の利益の問題を中心に最近の研究成果を紹介し,これからの研究を展望した.協同繁殖種は特定の分類群に特によく出現する.種間比較研究は,生活史は協同繁殖が出現する素因となり,生態的要因はそのような分類群内での協同繁殖の出現を促進することを示唆する.一方,系統学的研究は,協同繁殖は祖先的であり,系統学的歴史が協同繁殖の起源や維持を説明する確かな手段であると示唆している.協同繁殖種の配偶様式,群れ内メンバー間の血縁関係,ヘルパーの手伝い行動などのあり方は,従来考えられていたよりも多様であることが明らかになりつつある.群れメンバーはそれぞれ異なる利益を得ていると考えられている.非血縁ヘルパーが以前考えられていたよりも多く,非繁殖ヘルパーは普遍的ではない.ヘルパーの手伝い行動は群れ内で一様ではない.ヘルパーの存在,手伝い行動そのものが繁殖成功の向上に結びつかない例も少なくない.これらの事実は,手伝い行動における直接的利益の重要性を示唆している.ヘルパーが繁殖し,直接的利益を得ていることも稀ではない.これからの研究に不可欠なものは,長期間の個体群動態研究と遺伝学的手法を用いた性判定や血縁判定である.国外の協同繁殖種と近縁な非協同繁殖種の研究も重要である.

著者関連情報
© 日本鳥学会
次の記事
feedback
Top