日本泌尿器科学会雑誌
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尿路感染防御機構の研究
尿中マンノースの感染防御における役割
豊田 精一福士 泰夫加藤 慎之介折笠 精一鈴木 康義
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1989 年 80 巻 12 号 p. 1816-1823

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抄録

膀胱の有する様々な感染防御機構のうち最も基本的且つ大きな効果を有するのは排尿による洗浄作用である. これに打ち勝って細菌が膀胱内にとどまるには粘膜に付着する過程が必要となる. 付着の機序の1つに細菌線毛があるが, 中でもI型線毛は普通線毛と言われるほど一般的で, 上皮細胞表面に存在するマンノースをリセプターとする事が知られている. 従って尿中にマンノースが存在するばそれらは線毛を覆い, 菌の上皮への付着を競合的に阻止すると予想される. そこで我々は高速液体クロマトグラフィーを用いて尿中マンノースの検出を試みた. マンノース標品による検討では検出限界は0.02μgと微量で, 保持時間及び検出濃度の再現性も十分なものであった. 尿中マンノースの検出を試みた186例中, 近傍のピークに隠されずにマンノースのピークの存在が確かめられた例が80例, 濃度測定できた例が24例であり, その濃度は2.6~108.7μg/mlで多くは20μg/ml以下であった.
次に微量のマンノースが菌の付着を阻止しうるか否かを赤血球凝集反応で検討した. 用いた菌はI型線毛保有急性膀胱炎起炎大腸菌11株である. 凝集阻止最小マンノース濃度は0.6~156μg/mlであり, 11株中7株では20μg/ml以下の濃度で赤血球凝集が阻止された.
以上の結果より尿中に存在する微量のマンノースだけでもI型線毛を介する細菌の粘膜付着を阻止し, 膀胱の感染防御に役立っている可能性が示唆された.

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