2001 年 92 巻 5 号 p. 589-592
73歳, 男性. 1999年9月初旬より全身倦怠感と微熱が出現し, 当院内科を受診. 腹部CTにて左腎下極に3.5cmの腫瘤を認め, ガリウムシンチでの同部の集積像もみられたことから, 腎原発悪性リンパ腫の疑いで, 1999年11月10日に当科紹介受診となった. 検尿所見には異常なく, 血液生化学検査ではCRPおよび可溶性インターロイキン2受容体 (sIL-2R) の軽度上昇と赤沈の亢進以外には異常所見を認めなかった. 腹部MRIで, 腫瘤はT1強調画像で等信号, T2強調画像で低信号を示し, 血管造影では腫瘍性血管は認めなかった. 以上の検査結果から, 乏血管性腎細胞癌あるいは腎原発の悪性リンパ腫を疑い, 1999年12月20日に左腎摘除術を施行した. 腫瘤はゴム様硬, 淡黄白色均一, 充実性腫瘤で, 辺縁は不整であったが周囲との境界は明瞭であった. 病理組織学的所見にて腫瘤は形質細胞, 小リンパ球, 好中球, 好酸球の浸潤を伴う線維性の組織から成り, 炎症性偽腫瘍と診断された. 術後経過は良好で2000年1月18日に退院となった. 腎に発生した炎症性偽腫瘍は極めて稀で, 自験例は内外で15例目である.