日本透析療法学会雑誌
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心臓腫瘍との鑑別が困難であった僧帽弁下石灰化結節を認めた慢性透析患者の1例
松村 正巳津川 喜憲佐藤 隆瀬田 孝名村 正伸金谷 法忍大家 他喜雄
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1992 年 25 巻 2 号 p. 113-118

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抄録

心臓腫瘍との鑑別が困難であった僧帽弁下石灰化結節を認めた, 慢性透析患者の1例を経験したので報告する.
症例は60歳, 女性. 57歳より慢性腎炎による腎不全のため, 血液透析を開始. 消化管精査目的にて入院中, 心エコー図上, 僧帽弁後尖の基部を中心として, 一部左室後壁内に及ぶ, 直径2cmの円形異常エコーが認められた. 肺動脈造影では左房内へ突出する石灰化陰影を認め, 石灰化陰影と造影される左房内腔との間にX線透過性の部分が存在し, 心内膜下に存在することが推定された. 冠動脈造影では, 石灰化陰影に達する異常血管は認められなかった. 心臓腫瘍を否定できないものの, 心内膜下に存在し, 嵌頓, 塞栓症の危険性が低いこと, 摘出術に際しては, 僧帽弁置換術をも必要とする可能性が高いことから, 経過観察となった. 患者は2か月後, 脳出血にて死亡した. 剖検にて腫瘤は泥状石灰化結節であることが判明した.
僧帽弁輪部石灰化は高齢者に散見され, 特に慢性腎不全患者に頻度が高い. 発症機転として, 弁輪部に対する力学的ストレスの増加や, Ca・P積の上昇などがいわれている. 本症例はCa・Pコントロールは不良であり, 石灰化発症への関与が示唆された. これまでの報告例は, J, C, U字形がほとんどであり, 本例のような球形の報告は見当たらず, 石灰化が泥状である点も, これまでの報告とは異なり, 極めて稀な症例と思われた.

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