日本透析医学会雑誌
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維持透析患者の脳血管障害 -臨床病型の特徴を中心として-
野田 恒彦鈴木 正司宮崎 滋高江洲 義滋萩野下 丞青池 郁夫桜林 耐甲田 豊湯浅 保子酒井 信治高橋 幸雄鈴木 一夫平沢 由平
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2000 年 33 巻 11 号 p. 1389-1399

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抄録

1981年から1996年に当院で治療を受けた1,837例 (男1,113, 女724) の維持透析 (MD) 患者, 15,517.4患者・年 (男9,542.2, 女5,975.2) を対象として, 脳血管障害 (CVD) の発生率, 発作率, 予後および基礎腎疾患との関連性を後向き調査した. CVDの診断にはCTを用いた.
初発のTIAと虚血性脳卒中 (RINDと脳梗塞) の発生数, 死亡数, MD患者10万対の年間発生数 (incidence), MD患者10万対の年間死亡数は79, 11, 509, 71, 脳出血 (ICH) では34, 15, 219, 97, くも膜下出血 (SAH) では8, 5, 52, 32であった. 再発を含めたTIAと虚血性脳卒中の発作数, 死亡数, MD患者10万対の年間発作数 (attack rate), MD患者10万対の年間死亡数は104, 15, 670, 97, ICHでは46, 23, 296, 148, SAHでは8, 5, 52, 32であった. また初発の虚血性脳卒中の発生数, incidenceは67, 432, 再発を含めた虚血性脳卒中の発作数, attack rateは92, 593であった. 虚血性脳卒中のincidence, attack rateおよびICHのincidenceに性差はなく, ICHのattack rateで男が女の1.4倍であったにすぎなかった. 一方コントロールとした秋田県地域住民の同年齢の男の一般患者の虚血性脳卒中およびICHのincidence, attack rateは, 女のそれらのほぼ2倍であった. その結果, MD患者では初発の虚血性脳卒中のincidenceは一般患者の1.7倍 (男1.2倍, 女2.2倍), ICHのincidenceは2.4倍 (男2.0倍, 女3.0倍) であった. また再発を含めた虚血性脳卒中のattack rateは1.6倍 (男1.1倍, 女2.5倍), ICHのattack rateは2.6倍 (男2.2倍, 女2.9倍) であった. しかし, MD患者の初発の虚血性脳卒中とICHの発生数の比は1.97, 再発を含めた虚血性脳卒中とICHの発作数の比は2.0で, 一般患老のそれらの比率とほぼ同じであった. MD患者の死亡率 (%) を当院の一般患者と比べてみると, 再発を含めた虚血性脳卒中では2.9倍, ICHでは2.6倍であった. 基礎腎疾患患者10万対の虚血性脳卒中のincidenceとattack rateは, DM腎症で1,375, 2,027, 高血圧性腎硬化症で1,056, 1,441, 糸球体腎炎で275, 330であった.
MD患者では虚血性脳卒中およびICHの発症の危険度が1.6-2.6倍程度, 死亡の危険度が2.6-2.9倍程度高くなるが, 虚血性脳卒中とICHの比および虚血性脳卒中とICHの死亡率 (%) の比は, 一般患者のそれと大きく異なることはなかった. またMD患者では, ICHのattack rateにわずかの性差がみられたのを除くと, 虚血性脳卒中, ICHともそのincidence, attack rateに差がなかったが, これは高血圧や持続する慢性腎不全状態, 非生理的な体外循環といったMD患者に共通した因子が性差以上に影響すると考えた. さらに基礎腎疾患により動脈硬化の進行が異なり, CVDの病型にも影響すると考えた.

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