イオンビーム照射効果の中で, 最近注目を浴びている注入効果を中心とした固体材料の表面・表層・界面の改質について解説した。イオン注入と言われるエネルギー領域でのイオンビーム照射は, 表層への粒子添加およびエネルギー付与による照射損傷の導入を特徴としている。この特徴を利用したポリマーの改質では, カプトン-Hの表層導電化, ポリアセチレンのp-n接合形成, 医療用シリコーンゴムのぬれ性などを紹介した。炭素材へのイオン注入では, ダイヤモンドの表層導電化と電気化学的性質, またグラッシイカーボンの耐摩耗性改善などについて言及した。金属表層のセラミックス化については, AlへのNイオン注入による結晶性AlNの形成について紹介した。イオンビームによる表層改質と薄膜形成の関連という観点から, 改質層上への薄膜コーティングが従来法に比べて優れた特性を持つことを, N注入Al上へコーティングしたAlNの電気特性, イオン注入工具鋼へコーティングしたTiNの耐摩耗性を例に示した。更に, イオンビーム照射による薄膜の結晶化の例として, AlN0.8へのNイオンビーム照射によるc軸配向性AlNの結晶成長について紹介した。これらの結果は表面・表層・界面の改質へのイオンビームの有用性を示している。